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家族を失ってもう何年にもなる。
あの日以来、A.R.O.A.に拾われ、ずっと来たるべき時のために訓練を受けてきたアスカ・ベルウィレッジだったが、ついにその日は訪れた。
自らのパートナーとなる、適合する神人が現れたのだ。
だが……
アスカはこの顔合わせについて、いくつかの疑問が生じていた。
ひとつ、会合場所がA.R.O.A.本部ではなく、タブロス市内の高級ホテルのレストランであること。
ふたつ、そこへ行くのにスーツを指定されるという謎のドレスコード。
そしてみっつ……
アスカの目の前、向かいの席には、意志の強そうな翠の瞳の少女が、なぜか振り袖姿で座っていた。
この少女こそが自分の神人となる人物であるのは分かる。ウィンクルムとなるべき相手のことが分かるというのは本当のことなのだろう。
だが問題はそこじゃない。
「…………あの……」
なんとか話を進めようとアスカは声を絞り出した。しかし続きが出てくる前に、少女がすっと引き絞られていた口を開いた。
「はじめまして、八神伊万里と申します。このたびは、私と適合する精霊として契約に至ってくださりありがとうございます。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」
席を立ち、深々とお辞儀する少女。アスカは思わず叫んでいた。
「──って、何でお見合いみたいになってんだよっ!?」
息をあえがせ、再び伊万里を見る。が、彼女はきょとんとした視線をこちらによこすだけだ。
彼女の両隣に座っていた40代ほどの男性と女性は、かわらずニコニコと微笑ましげな目で二人を見つめている。これはおそらく伊万里の両親だろう。
彼女の親が元A.R.O.A.の職員であり、今回の契約もその伝手で紹介されたというのは事前情報として知っていた。
だが、これはあまりにもおかしいだろう。ちっともウィンクルムの契約の場には見えない。
そんなアスカの困惑をよそに、伊万里の隣の女性は金の髪を揺らしながらにこりと微笑む。
「あら、だってこれからは家族になるんですもの。大丈夫よ、私、これまでも何組ものウィンクルムの仲人を務めてきたのよ」
「え……家族?」
「そうだよ」
アスカの疑問に、今度は反対側の男性が答える。
「君にはこれから、娘と契約した精霊としてうちで一緒に暮らしてもらうから。私たちのことは本当の家族だと思ってくれてかまわないよ」
「え……えぇぇええええええっ!?」
なんということだ、まるっきりただの見合いではないか。
確かに契約する精霊としては、神人を守るためにも常にそばにいた方がいいというのは分かる。
「ちょっと待て、話が急すぎる! だいたい、俺は……」
「引っ越し費用のことなら心配しないで。もうすでに手配済みだから。契約が終わるころにはもううちに荷物が届くだろうし……」
「そういう問題じゃなぁーい!」
ツッコミが追い付かない。額を流れる汗をぬぐう余裕すらなくアスカはあらん限り叫んだ。
その時である。状況が掴めていなかったのかそれまで黙っていた伊万里が席につき、据わった目で隣の父親を見た。
「父さん……どういうことですか?」
「え?いやぁ……」
「このお見合いのようなセッティング、これがウィンクルム契約の儀式の時のしきたりだと言いましたよね。あれは嘘だったんですか?」
「だって、お前の花婿になるかもしれないし……外で彼氏作って来るよりは、こっちの方が確実……ご、ごめんなさい」
しゅんとする父親を一瞥すると、伊万里は再びアスカに向き合う。
「うちの父がすみません。それで、あの……どうしますか?契約」
二つのエメラルドにじっと見つめられる。驚いたのはこのお見合いのような雰囲気なだけで、契約をどうするかというのは決まっている。
「俺に適合する神人はアンタだけだ。だったら、契約するしかないじゃないか」
それまでの心労からか、つい言葉が刺々しくなってしまう。しかし伊万里は、契約する、との答えを聞きふっと表情を緩めた。
「……はい、よろしくお願いしますね、私の精霊さん」
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